- 出版翻訳って具体的にどんな仕事?
- 出版翻訳者になるための方法を知りたい!
- 産業翻訳とはどう違うの?
出版翻訳に興味がある皆さん、具体的な仕事内容や働き方が気になっていませんか?
出版翻訳者になるためには「翻訳学校や各種講座で実力を身に付けたうえで、出版業界とのつながりを構築すること」が必要です。

ぺんさんがやっている産業翻訳とはどう違うの?



産業翻訳ではビジネス関連の文書やウェブサイトを扱いますが、出版翻訳は書籍を翻訳する仕事です
産業翻訳や映像翻訳と比較すると、納品形態や納期、クライアントとの関わり方にも違いがあります。
- 出版翻訳は英語の原書を日本語に翻訳する緻密な仕事
- 出版翻訳者になる方法には「著名な翻訳者に師事する」といった特徴的なルートもある
- 出版翻訳では産業翻訳よりも長いスパンでの作業が必要。案件の受注方法も異なる
出版翻訳者になるためには「翻訳学校で学ぶ」「著名な翻訳者に弟子入りする」「翻訳コンテストに応募する」といったルートがあり、出版翻訳に特化した戦略が必要です。
今回は出版翻訳者の鵜田良江さんに記事執筆を依頼し、第一線で活躍するプロの目線で解説していただきます!



鵜田さん、よろしくお願いします!
産業翻訳との違いも教えてください



はじめまして!ドイツ語・英語のエンタメ出版翻訳歴8年の私が経験ベースで解説します
「出版翻訳者になる方法」「出版翻訳の仕事内容」「仕事の獲得方法とスキルアップ戦略」について、鵜田さんと一緒に詳しく解説します。
記事の執筆を鵜田良江さんにご担当いただき、ブログ運営者のぺんさんが推敲と加筆修正などを行いました。
本の翻訳を手掛ける出版翻訳者とは?


出版翻訳は、翻訳の3大分野である「産業翻訳」「出版翻訳」「映像翻訳」のうちの一つです。
ビジネス文書などを翻訳する産業翻訳者や字幕や吹き替えを担当する映像翻訳者とは異なり、出版翻訳者は英語の書籍を日本語に翻訳します。
最も産業規模が大きいのは産業翻訳で、その割合は全体の9割程度*¹。
産業翻訳ほど案件は多くありませんが、出版翻訳者は「縁の下の力持ち」のような重要な役割を担っています。
*¹ データ参照元:「知財HR」
出版翻訳の仕事を知るために、以下の2点について見ていきましょう。
- 出版翻訳者の主な仕事内容
- 出版翻訳者に求められるスキル
出版翻訳者の主な仕事内容
出版翻訳者の主な仕事は「英語で書かれた書籍を日本語に訳すこと」です。
日本語に翻訳すること以外にも、出版翻訳者には以下のような役割が求められています。
- 事実関係の調査
- 原文の不備の確認
- 編集者との共同作業による推敲
翻訳原稿を納品してしばらくすると、ゲラ(出版される書籍と同じようにレイアウトされた試し刷り)が送られてきます。
このゲラのチェックも出版翻訳者の重要な仕事です。



「ゲラ」は初めて聞きました!
産業翻訳とは違うんですね



産業翻訳でもレイアウトのチェックなどをすることがありますが、「ゲラ」は出版翻訳特有のものですね
出版翻訳者にはメディアやイベントに登場する華やかなイメージがあるかもしれませんが、実際には原文や訳文の言葉とひたすら向き合う地道な作業が伴います。
産業翻訳については、以下の記事で詳しく解説しています。
出版翻訳者に求められる主要スキル
出版翻訳者に求められるスキルのうち、特に重要なものは以下の4つです。
- 高度な英語力と言語感覚
- 優れた文章力と柔軟性
- 幅広い知識と調査能力
- 深い洞察力と作品解釈力
「文学」という言葉から連想されるような、装飾的な文章をあえて書く必要はありません。
出版翻訳者には、原文の意図や編集方針に合わせて臨機応変に言葉を紡ぐことが求められています。
さらに、編集者に対して「なぜこのように訳したのか」という根拠を説明できる言語スキルも欠かせません。
出版翻訳の3つの主要ジャンル


出版翻訳にはさまざまなジャンルがありますが、以下の3つに大別して説明します。
- 文芸(フィクション)作品の翻訳
- ノンフィクション作品の翻訳
- 児童書・絵本の翻訳
文芸(フィクション)作品の翻訳
文芸作品は、主に以下の2ジャンルに大別されます。
- 古典文学などの文学作品
- ミステリー、SF、ファンタジーなどのエンタメ作品
文学作品は文学研究者などの専門家が翻訳することが多い一方で、エンタメ作品は多くの翻訳者に開かれたジャンルであると言えるでしょう。
出版翻訳者は、小説のほかにも漫画を翻訳することもあります。



出版翻訳では幅広いジャンルを扱う必要があるんだね!
ノンフィクション作品の翻訳
ノンフィクション作品には、以下のようなさまざまなジャンルがあります。
- ビジネス書
- 自己啓発書
- 自伝
- 科学関連の読み物
- 専門書
- エッセイ
- ルポルタージュ
- 漫画
ITエンジニアなどの専門的なバックグラウンドがあれば、翻訳のチャンスが広がる分野です。
また、世界同時発売のようなマーケティング施策が展開される際には、文学作品よりも締め切りがタイトになるケースもあります。



どの翻訳市場においても、専門的なバッググラウンドがあると有利です
児童書・絵本の翻訳


児童書や絵本には、フィクションとノンフィクションの両方が含まれます。
近年では、学習漫画などの翻訳需要が少なかったジャンルの作品も出版されるようになってきました。
たとえば児童書では、以下のような分野特有のルールがあります。
- 読者層に合わせた言葉遣い
- 年齢や学年に合わせた漢字の表記
「児童書や絵本の翻訳は簡単そう」というイメージを持つ方もいますが、実は非常に奥が深い分野です。
出版翻訳者の働き方と報酬


翻訳者には、主に以下のような働き方があります。
- フリーランスとして業務委託で翻訳案件を受注する
- 企業の社員として在宅やインハウス(オフィス勤務)で翻訳業務を行う
出版翻訳者の場合は、ほとんどが外注のフリーランスという立場で仕事をすることになります。
在宅で翻訳を行うケースがほとんどですが、大学や企業などの許可を得てオフィスで業務を行うことも。
出版翻訳者の働き方について、以下の2点を詳しく解説します!
- 出版翻訳の仕事の流れ
- 出版翻訳者の収入と報酬体系
出版翻訳の仕事の流れ
書籍の翻訳の場合、以下のような流れで仕事の打診が来るケースが多くなっています。
- 出版社の編集者から声がかかる
- 出版関連の翻訳会社から依頼される
打診の後に、版権(邦訳を出版する権利)の取得を経て正式な受注となるわけです。
版権の取得が済んだ段階で打診が来ることもあり、この場合にはすぐに翻訳を開始できます。



案件を受注したら、締切に間に合うようにスケジューリングすることが重要です
綿密なリサーチが必要であることはもちろん、場合によっては編集者と相談しながら翻訳や推敲を重ねることもあります。
翻訳原稿の納品から約数か月でゲラが送られてくるため、以下の項目をチェックして訂正の指示や申し送りを行います。
- 誤訳はないか
- 事実関係に相違はないか
- 表現は適切か



訂正の指示や申し送りは、ゲラを返送する際に送ります
ゲラのやりとりは初校と再校時に2回行うのが一般的ですが、ゲラのやりとりがない場合や4~5回繰り返すケースも。
クライアントによっても異なるため、ケースバイケースで対応することになります。
出版翻訳者の収入と報酬体系
出版翻訳者の報酬体系は、以下の3つに大別されます。
- 印税方式
- 買い切り
- 買い切りと印税の折衷方式
出版翻訳の多くが「印税方式」で、印税率は書籍によって異なります。
3〜8%などの印税率が一般的ですが、例外的に20%程度になることも!



「価格×発行部数(または実売部数)×印税率」で計算されるため、報酬額は売れ行きに大きく左右されます
「買い切り」は、発行部数にかかわらず、納品後や刊行後にまとまった報酬が支払われる方式です。
「買い切りと印税の折衷方式」では売れ行きを問わずに一定額が支払われ、発行部数が増えると印税も支払われます。
どの報酬体系であっても、支払い時期は出版社によって異なることに注意しましょう。



翻訳原稿の納品から2か月以内のこともあれば、書籍の刊行から半年後という場合もあります
出版翻訳者になるためのおすすめルート


出版業界に人脈があることは強みとなりますが、人脈がないからといって諦める必要はありません!
たとえば、以下のようなルートで出版翻訳者を目指すことが可能です。
- 翻訳学校で出版翻訳の基礎を学ぶ
- 出版翻訳に精通した翻訳者に師事する
- 翻訳コンテストに応募する
- リーディングを極める
これらのおすすめルートについて詳しく解説します!
*² ここでいう「リーディング」とは、一般的な英文読解とは異なります。
リーディングの詳細はこちら
翻訳学校で出版翻訳の基礎を学ぶ
以下の翻訳学校では、出版翻訳のコースが開講されています。
通信講座やライブ配信講座などもあるため、通学が難しい方でも気軽に学べるのは嬉しいポイント!



各学校の講座開講時期などについては、公式サイトで確認してください
提出した訳を講師が客観的に評価してくれるので、自分のレベルを把握してモチベーションを高めることができます。
翻訳講座では独学だと習得が難しい翻訳技法や専門スキルも学べるため、初心者にはこのルートが最もおすすめです。
翻訳3大分野の講座を開講している「フェロー・アカデミー」の詳細はこちら
出版翻訳に精通した翻訳者に師事する


憧れの出版翻訳者がいる方は、ファンレターを書いたりイベントに参加したりしてコネクションを構築するのも良いでしょう。



「コネを作って信頼できる翻訳者さんに教えていただく」という感じです



弟子として勉強するんですね!
ただし、弟子を取らない翻訳者もいるため、やり過ぎて迷惑をかけないように気を付けてください。
直接コンタクトを取る以外には、以下のような方法もおすすめです。
- 各地のカルチャーセンターで学ぶ
- 翻訳関連の団体や企業主催の講座を受講する
不定期開催の講座を含め、著名な翻訳者から学べる機会は豊富にあります。
情報を見逃さないようにアンテナを張っておくと良いでしょう。
翻訳コンテストに応募する
出版翻訳分野では、以下のようなコンテストが開催されています。
- いたばし国際絵本翻訳大賞
- 『通訳翻訳ジャーナル』の誌上翻訳コンテスト
また、翻訳者向けサービスが開催しているコンテストもチェックしておきましょう。
アメリアやトランネットのコンテストは会員向けですが、合格すれば翻訳者として採用されるチャンスも!
落選した場合でも、選考者から別の作品で声をかけてもらえることがあります。
興味を持てるジャンルの作品があれば、積極的に応募してみましょう。
リーディングを極める
「リーディング」といっても、一般的な英文読解とは異なります。
書籍の内容を数ページにまとめた「レジュメ」という資料を作成する作業です。



編集者が邦訳(日本語訳)作品選定の参考にできるようにレジュメを作ります
リーディング講座は、前述した翻訳学校でも開講される場合があります。
リーディングでは以下の項目をコンパクトにまとめる必要があるため、原文の読解力・日本語力、作品解釈力・調査能力をアピールできるチャンスです。
- 作家や著者の経歴
- 作品の内容
- 現地や国外での評価
レジュメの出来栄えによっては翻訳者として採用されるチャンスがあるので、出版社や翻訳会社との関係を築ける可能性が広がります。
出版翻訳者に必要な4つのコアスキル


出版翻訳者には、以下の4つのスキルが必要です。
- 高度な英語力と言語感覚
- 優れた文章力と柔軟性
- 幅広い知識と調査能力
- 深い洞察力と作品解釈力
これらのスキルは必須なので、翻訳学校の講座などを活用して習得しましょう。
高度な英語力と言語感覚
何よりもまず、原文を正確に読み解く英語力が必要です。
語彙力も大切ですが、基本的な文法知識がすべての土台となります。
書籍の翻訳では「原文の間違いを間違った日本語で再現すべきケース」もあり、そこで役立つのが正しい文法知識です。
作家や著者が繰り出すどんな変化球にも素早く反応できるように、言語感覚を磨いておきましょう。
優れた文章力と柔軟性
原書が生み出す感動をそのまま再現するには、日本語の語彙や語順に細心の注意を払える「文章力」も重要です。
出版翻訳では翻訳者がすべての訳を決定するわけではなく、編集者との共同作業によって1冊の本を作り上げます。
つまり、編集者の要望に応じて別の翻訳を提案できる「柔軟性」も欠かせません。



独りよがりにならず、一緒に作り上げるという意識も大事です
幅広い知識とリサーチ能力


出版翻訳では、作家や著者が持つ前提知識を考慮して翻訳する必要があります。
知識のズレが生じないように、作品にまつわる歴史や文化、宗教などの背景知識も身に付けておきましょう。



自分が得意な分野を選択することも重要です
作品によっては、科学技術などの専門知識を求められることも。
あまり馴染みのない分野であっても、適切なリサーチ方法を用いて根拠を示す必要があります。
公的機関や大学のサイト、定評がある著者が書いた資料などを参照し、Wikipediaや個人ブログなどに頼りすぎないことが大切です。
信頼できるリソースを取捨選択できるよう、日頃からリサーチ力も鍛えておきましょう。
深い洞察力と作品解釈力
英語力や知識に基づいて原文の行間を読んでいくためには、作家や著者の思考を読み取る「洞察力」が重要です。
この他にも、以下のような多種多様な資料をもとにシーンやセリフの意図を汲み取る「作品解釈力」が求められます。
- 作家や著者のバイオグラフィー
- インタビュー
- 同じ書き手の他の作品
作品を深く理解したうえで、以下のような工夫をこらせるように練習しましょう。
- 同じような言い回しが使われていれば訳をそろえる
- 対置された表現を訳にも反映させる
- 特定の箇所まで伏せられている情報は前に出さない
出版翻訳に関するよくある質問


出版翻訳に関するよくある質問に回答します。
出版翻訳に興味がある方はぜひ参考にしてください!
出版翻訳と産業翻訳の違いは?
出版翻訳と産業翻訳の最大の違いは、求められるスピード感です。
産業翻訳では、打診が来てから数時間後に納品を求められることもあります。
出版翻訳の場合は、打診、版権の取得、作業開始まで何か月も待たされることがあるのが特徴です。



じっくりと作品と向き合う仕事なんだね!
長いスパンで仕事をすることになるので、1日あたりの翻訳時間や作業量の融通が利きやすいと言えるでしょう。
出版翻訳者に向いている人とは?
まず、「本が好き」という気持ちが重要です。
活字を追うことに至福を感じられる方にとっては、出版翻訳は天職かもしれません。
1冊の本を1つの作品として仕上げる必要があるため、演出家的な視点を備えていると理想的です。
この他にも、以下のスキルがある方には出版翻訳をおすすめします。
- 数か月間たった1冊の本と向き合い続けられる根気強さ
- 締め切りまでに翻訳原稿を仕上げられる計画性
- 編集者と一緒に本を作り上げるためのコミュニケーション力
出版翻訳の仕事をもらう方法は?
翻訳したい作品を出版社に持ち込むという方法もありますが、実績がない場合はあまり現実的ではありません。
以下のような自発的な活動がきっかけで、編集者に目を留めてもらえるケースもあります。
- 出版関係のイベントに積極的に出席する
- ブログなどで未邦訳書の書評を発信する
他にも「出版翻訳を扱う翻訳会社に登録する」「アメリアでプロフィールを掲載する」といったアクションを起こして、チャンスを逃さないようにしてください。
産業翻訳や映像翻訳と比較した出版翻訳の報酬は?
産業翻訳のように需要が多いわけではないため、出版翻訳一本で安定収入を得ることは難しいでしょう。
ビジネス書などを訳す一部の翻訳者を除き、出版翻訳者の多くは別の収入源を確保しています。



「大ヒット作に恵まれて一獲千金!」みたいなことはないんですか?



それは稀ですね・・・
生計を立てられるほど訳書が売れることはめったにありません
決して報酬面で有利なわけではありませんが、以下のような思いを持っている方には魅力的な仕事です。
- 自分の能力を発揮できる仕事がしたい
- 素晴らしい本を日本に紹介したい
出版翻訳には語学力だけでなく柔軟性やコミュニケーション力も必要!


今回は、出版翻訳に精通した鵜田良江さんに「出版翻訳者になる方法」「出版翻訳の仕事内容」「仕事の獲得方法とスキルアップ戦略」を解説していただきました。
この記事のポイントをまとめると・・・
- 出版翻訳は英語の原書を日本語に翻訳する緻密な仕事
- 出版翻訳者になる方法には「著名な翻訳者に師事する」といった特徴的なルートもある
- 出版翻訳では産業翻訳よりも長いスパンでの作業が必要。案件の受注方法も異なる
本が好き、言語が好き、何かを作り上げることが好きな方にとって、出版翻訳は魅力的な仕事です。
翻訳学校などを上手に活用して、ぜひ出版翻訳の扉を開いてみてください。