- 産業翻訳って何を翻訳するの?
- 「レビュー」や「チェック」ってどんな仕事?
- 産業翻訳の分野について知りたい!
- 翻訳者になる前に専門分野を絞るべき?
産業翻訳者を目指しているものの「具体的な業務内容や分野がイマイチよくわからない」と思っていませんか?
一言に「翻訳」といっても、分野によって翻訳するものが異なります。
ビジネス文書を翻訳する産業翻訳は出版翻訳や映像翻訳よりも需要が多く、翻訳市場の約9割を占めています!
産業翻訳は稼ぎやすいってこと?
安定的に仕事を獲得しやすい傾向にありますね
求人を見ると「職種」とか「分野」とか書いてあるよね・・・
そう!翻訳では職種や分野が分かれているんです
- 産業翻訳の主な仕事はウェブサイトやビジネス文書の翻訳
- 職種は「翻訳」「レビュー/チェック」「ポストエディット」に大別される
- 医薬・特許・法務・金融・マーケティング・IT・工業/技術・ゲーム翻訳など、分野は多岐にわたる
- 早めに専門分野を絞り、分野に特化した知識を身につけるべき
「私はマーケティング関連のレビューが専門です」というように、得意とする職種や分野があれば翻訳者としての信頼度がアップします。
翻訳で成功したい人のために、業務内容と分野について詳しく解説します!
産業翻訳の主な3つの職種とは?
英語を日本語に翻訳する業務だけでなく、それを校正する業務も存在します。
また、機械翻訳の訳を人間が修正する「ポストエディット (MTPE: Machine Translation Post Editing)」も普及しています。
ここでは、主な3つの職種について詳しく説明します。
翻訳 (Translation)
英文を一から日本語に翻訳する仕事です。
翻訳プロセスの中で一番最初に行う重要な業務なので、原文の意味を理解して正確な訳を捻出する必要があります。
産業翻訳ではウェブサイトやビジネス文書の翻訳が大半ですが、アプリのメニューやコマンドを翻訳するUI翻訳などもあります。
翻訳業務の単価
翻訳業務では英文を一から翻訳するので、他の業務よりも単価は高めです。
ワード数ごとに単価が設定されている場合が多いですが、時給ベースの会社もあります。
英日翻訳の場合、7~15円/1ワードの範囲で単価が設定されている場合が多いようです。
医薬翻訳などの専門性が高い分野では、さらに単価が高い傾向にあります。
経験を積んでいくと単価アップを見込めます
翻訳業務が向いている人
翻訳者として働くならば「翻訳業務」は必須です。
最初からレビューやMTPE業務のみを受注するケースは稀なので、どんな文書でも正確に処理できる高い英語力が必要です。
- 英文を読むのが苦痛でない
- 原文の意図をさまざまな角度から解釈できる
- できるだけ高い単価の仕事を受注したい
レビュー/チェック (Proofreading)
翻訳者が訳した日本語を見直して修正する業務です。
多くの翻訳会社では、翻訳の後に「レビュー/チェック」プロセスを設けてダブルチェックを行っています。
原文の意図が翻訳に反映されているかどうかを確認し、「自然で読みやすい日本語」へと修正するのが主な業務です。
レビュー/チェックの単価
翻訳業務に比べると単価は低めで、平均的な単価は2.5~5円/1ワード程度です。
どの業務でも経験やスキルに応じた単価アップは可能ですが、最初から1ワード10円以上でレビュー業務を受注するのは難しいでしょう。
レビューの場合、時給ベースの会社も多いです
レビュー/チェックが向いている人
スタイルガイド* などのルールに従って校正する作業に慣れてくると、翻訳よりもレビューの方がやりやすいという人もいます。
不自然な日本語や表記ミスに敏感な人にも向いているでしょう。
- 決まったルールに従って素早くチェックすることが得意
- 日本語力に自信があり、漢字表記や文法などの知識が豊富
- 客観的な視点で他人の訳文を評価&比較できる
*スタイルガイド: 翻訳するうえでの表記や表現のルールをまとめたもの
ポストエディット (MTPE)
機械翻訳が訳したものを自然な日本語に修正する業務です。
レビューでは「他人が訳したものをチェック」しますが、MTPEでは「機械翻訳の訳を参照して自分で翻訳」します。
機械翻訳にはスタイルガイドに沿った訳文生成や用語の統一が難しいため、翻訳と同様の労力がかかることが課題となっています。
ポストエディットの単価
「大元の翻訳はAIがしてくれる」という性質から、翻訳業務よりも単価が低めに設定されているケースがほとんどです。
平均的な単価は4.5~7.5円/1ワード程度。
「一から翻訳する方が楽」「機械翻訳を修正するほうが時間がかかる」というデメリットもあるため、ポストエディットを嫌う翻訳者も少なくありません。
「労力の割には単価が低い」というのが課題ですね
ポストエディットが向いている人
不満の声がある一方で、機械翻訳がベースになっていた方が時短になると考える人もいます。
機械翻訳の誤訳を見抜いて即座に修正する必要があるので、高い英語力がある&機械翻訳の特長を理解している人に向いているでしょう。
- 機械翻訳にありがちな訳抜け・誤訳のパターンを把握できる
- レビュー/チェックの経験があり、自然な日本語に変換することができる
- 副業として空いた時間に作業したい
単価交渉も含め、MTPEの受注は慎重に!
翻訳業界の動向とMTPEについては、以下の記事で解説しています。
知っておくべき産業翻訳の8つの分野
これまでに説明した3つの職種すべてに共通するものとして、翻訳分野があります。
ここでは、8つの主な分野について詳しく解説します!
- 医薬 (メディカル) 翻訳
- 特許翻訳
- 法務翻訳
- 金融翻訳
- マーケティング翻訳
- IT翻訳
- 工業・技術翻訳
- ゲーム翻訳
注: 上記の分野に特化していない一般的なビジネス文書については「ビジネス一般」として扱います。
①医薬 (メディカル) 翻訳
医薬翻訳では、医学や薬学に関連する文書を翻訳します。
医療機関・治験・医療機器メーカーなどで使用される専門的な文書が多いため、英語力や翻訳スキルだけでなく高度な専門知識が必要です。
現役の医薬翻訳者には前職が医療従事者だったという人も多く、医薬に関する知識がある人に有利です。
主なクライアントと翻訳する文書
- 医療機関
- 医療機器メーカー
- 医薬製品メーカー
- 治験実施機関
- 医療・医薬製品のマニュアル
- 医学論文
- 臨床試験や治験の資料
- 医療機関のビジネス文書 (医療従事者/患者向けの資料など)
「医薬に関するバックグラウンドがある」「医薬翻訳の講座を受講した」といった経験がある人におすすめです!
専門性が高いので単価も高めです
②特許翻訳
特許翻訳では、特許関連の企業や出願人が発行する文書を翻訳します。
専門性の高い内容や用語を扱うので、他の分野に比べて英文の難易度も高めです。
国独自の様式などが設定されているため、英語で原文の内容を把握するだけでなく特許独自のルールや表現に精通している必要があります。
主なクライアントと翻訳する文書
- 特許庁
- 特許事務所
- 特許出願人
- 企業の知的財産担当者
- 特許明細書
- 特許出願人による意見書や補正書
- 特許庁による拒絶理由通知書
専門性が高い特許翻訳では、それに特化した翻訳講座を開講しているスクールもあります。
特許翻訳者を目指す人は「特許翻訳に特化した講座」を受講するとよいでしょう。
③法務翻訳
法務翻訳では、契約書や法務関連の文書を翻訳します。
翻訳する文書は、企業の就業規則・住民票・戸籍謄本などから裁判に関する文書まで多岐にわたります。
法令や法律用語に関する知識が求められるので、「法律関連の教育機関を卒業」「法務分野での実務経験がある」といった一定の要件を満たしている人が優遇されます。
「リーガル翻訳」とも呼ばれます
主なクライアントと翻訳する文書
- 法律事務所
- 一般企業
- 弁護士事務所
- 裁判所
- 契約書
- 各種証明書
- 裁判関連文書
- 税務書類
「法律職に就いていた」といったバックグラウンドがあると非常に有利ですが、これは必須ではありません。
ただし、法務翻訳者を目指すなら法務や税務に関する知識や法務に特化した翻訳スキルを身につけておきましょう。
フェロー・アカデミーの「契約書」講座もおすすめです
\ 資料請求で講座の詳細をチェックできます /
私が受講したフェロー・アカデミーの講座については、以下の記事で解説しています。
④金融翻訳
金融翻訳では、金融機関の財務文書や分析レポートなどを翻訳します。
銀行や保険会社から一般企業までさまざまなクライアントがいるため、「誰に向けた文書か?」を意識して表現を工夫する必要があります。
用語に関する知識だけでなく、数字や書式に関する特定のルールを徹底する正確性が求められます。
主なクライアントと翻訳する文書
- 銀行
- 証券会社
- 保険会社
- 一般企業
- 財務記録 (貸借対照表や決算書など)
- 銀行の文書 (キャッシュフロー計算書や申請書など)
- 投資銀行の文書 (M&A関連書類やピッチブックなど)
- 保険関連文書 (契約書や保険金請求書類など)
- アナリストによる分析レポート
金融に関する専門知識が必須なので、英語の資格以外にも「証券アナリスト」などの資格を持っていると有利です。
金融翻訳者には専門の翻訳講座を修了している人が多いです
⑤マーケティング翻訳
マーケティング翻訳では、ウェブサイトやプレスリリースなどの販促用文書を翻訳します。
企業の製品紹介ページやイベント関連文書など、主に外資系企業が日本の顧客向けに発行する文書を扱います。
特許・法務翻訳とは異なり、魅力的でキャッチーな文言で顧客を惹きつけるライティング力も必要です。
主なクライアントと翻訳する文書
- 一般企業
- 広告代理店
- 企業のウェブサイト
- プレスリリース
- カタログ・パンフレット
- 広告コピー
マーケティング翻訳では「クライアントが自社製品をどのようにアピールしたいか?」という希望を考慮することが重要です。
メッセージ性のある文言で企業の独自性をアピールできる「クリエイティブ・ライティング」を学ぶのもおすすめ。
企業の魅力を代弁できる日本語力が必要です
日本語力の重要性については、以下の記事で解説しています。
⑥IT翻訳
IT翻訳では、製品マニュアルやソフトウェアのUIなどを翻訳します。
IT技術の進化は日進月歩なので、IT翻訳の需要はますます増えていくでしょう。
IT特有のカタカナ用語が多いこともあり、日ごろからインターネットやデジタル製品に触れている人のほうが有利です。
主なクライアントと翻訳する文書
- IT企業
- 一般企業
- ソフトウェア開発者
- 製品マニュアル・技術仕様書
- ソフトウェアやアプリのUI
- 企業のウェブサイト
- デジタルカタログ
特にマニュアルなどでは誤訳によって大きな損失を生んでしまうので、翻訳者の正確性と慎重さが重要です。
IT翻訳は人気が高い分野なので、各翻訳スクールで講座が開講されています。
私もIT翻訳講座を受講しました
⑦工業・技術翻訳
工業・技術翻訳では、機械、電気、IT、建築、土木、エネルギー、物理、化学、環境などに関する文書を扱います。
特に安全性や品質に影響する文書では、誤訳のないわかりやすい翻訳が求められます。
エンジニアや研究者を対象としたものも多いので、理系出身者や技術文書に詳しい人におすすめです。
主なクライアントと翻訳する文書
- 工業機械製造メーカー
- 土木・建設関連企業
- エネルギー関連企業
- 自然科学関連機関
- 装置・機器の取扱説明書、据付説明書、技術仕様書
- マニュアル・ユーザーガイド
- 安全データシート (SDS)
- 各種調査報告書
調査や分析が重要な工業・技術分野では、翻訳者自身も積極的にリサーチすることが重要です。
細かい作業が苦にならず、新しいものへの関心が高い人に向いているでしょう。
工業分野に関する知識や経験を活かせます
⑧ゲーム翻訳
ゲーム翻訳では、海外のメーカーが製作したゲームをローカライズします。
ローカライズとは「ある国で製作された製品を、言語・慣習・文化・要件に合わせて別の国で使用できる状態にすること」です。
日本語でプレイするユーザーが快適にゲームを楽しめるように、直感的で魅力的な表現で翻訳する必要があります。
主なクライアントと翻訳する文書
- ゲーム制作会社
- ゲーム開発者
- マーケティング会社
- ゲームのUI
- マニュアル・チュートリアル
- システムメッセージ
- マーケティング資料
ゲーム翻訳者になるには「ゲームが好き!」「ゲームの世界観を大切にしたい」という情熱が必要です。
ゲームをプレイしたり実況動画を観るのが好きな人におすすめ
ゲーム翻訳者を目指している人は、大手ゲームローカライズ会社によるインタビュー記事もチェックしてみてください。
翻訳する専門分野を絞るメリット
さまざまな分野がある中で、「自分の専門分野を決めておく」ことで権威性をアピールできます。
分野特有の内容を把握できる
当然ながら、特許・法務翻訳で使用する硬めの表現をゲーム翻訳で使うのはNGです。
つまり、分野に特化した用語や表現を把握して、クライアントの意向に沿った訳文を提供する必要があるということです。
専門分野が多すぎると「結局どの分野が得意なの?」と不信感を持たれてしまう可能性も・・・
「好きこそものの上手なれ」と言いますが、これは翻訳の分野でも同様です。
「狭く深い知識」がメリットになるんだね
翻訳会社から仕事をもらえるチャンスが増える
翻訳会社では、ある程度分野を絞って翻訳者に仕事を依頼します。
特定の専門知識を必要としない「ビジネス一般」分野は別として、専門性の高い分野では経験のある翻訳者に仕事を任せたいと思うのが一般的。
専門分野があれば、「IT翻訳なら〇〇さんに任せよう」といった信頼を得やすくなります!
トライアル受験時も、履歴書に専門分野を記載しましょう
高単価の仕事を受注しやすい
専門性が高くなればなるほど翻訳単価もアップします。
医薬翻訳や特許翻訳の単価が高めなのは、その専門性が考慮されているからです。
一定期間同じ分野で経験を積めば、どの分野でも単価アップを実現しやすくなります。
その道のプロになって単価アップを目指しましょう
職種や分野を選んで専門性の高い翻訳者になろう
今回は、産業翻訳の具体的な業務内容と主な分野について解説しました。
この記事のポイントをまとめると・・・
- 産業翻訳ではウェブサイトやビジネス文書を翻訳する
- 「翻訳」の他にも「レビュー/チェック」「ポストエディット」などの職種がある
- 専門性の高いものからエンターテイメント性が求められるものまで、さまざまな分野がある
- 得意分野で信頼を得るために、専門分野は早めに決めておこう
翻訳者には、業務や分野に関する選択肢がたくさんあります。
知識や興味がある分野を見つけて「その道に精通した翻訳者」を目指しましょう!