- AIの進化で翻訳者は要らなくなるってホント?
- 翻訳の仕事がなくなる or 減る可能性は?
- そもそもAI翻訳ってどのくらい優秀なの?
- AI時代でも翻訳者として成功する方法は?
翻訳初心者や翻訳者を目指している方は、AI搭載の機械翻訳の登場で危機感を感じているかもしれません。

翻訳者に未来はない!っていう声もあるよね



確かに業界がザワついていますね



もう人間は必要ないってことなの?



それは違います。
AIを活用できる人間が必要なんです
翻訳業界では機械翻訳の使用を禁じている会社もありますが、
AIの進化を受けて「機械翻訳をうまく活用しよう!」という風潮が高まっています。
- AIが人間の翻訳者を超えることは難しい
- 手法や単価は変わっても翻訳の仕事自体はなくならない
- 機械翻訳を活用したMTPE* の需要が増える
- AIを使いこなせる&幅広く仕事を受けられる翻訳者が重宝される
*MTPE: Machine Translation Post Editing (機械翻訳で翻訳したものを人間が修正する作業。別名: ポストエディット)
私は5年ほど翻訳の仕事をしていますが、仕事量は始めた当初とほぼ変わっていません。
しかし、暗に単価カットを迫る会社が増えているなと感じます・・・
この記事では機械翻訳の精度を検証しながら、翻訳業界の動向と翻訳者として生き残る秘訣を解説します!
「翻訳の仕事がなくなる」は本当?
2023年現在、翻訳業界はどのように変わってきているのでしょうか?
フリーランスの現役翻訳者50人を対象に、
「翻訳の仕事量と単価の変化」に関するアンケート調査を行いました。
調査結果とSNSでの口コミから、翻訳業界の動向を分析してみましょう!
現役翻訳者50人に聞いた「翻訳の仕事量と単価の変化」
調査対象者と質問項目
今回実施した調査の対象者は下記のとおりです。
- 国内外問わず、フリーランス翻訳者として翻訳関連業務を受注している
- 1年以上定期的に翻訳業務を受注している
上記の条件に該当する50人の翻訳者を対象に、以下の3つの質問をしました 。
- 機械翻訳の影響で翻訳の仕事量は変わりましたか?
- MTPE案件を受注していますか?
- 以前と比較して翻訳単価は増減していますか?
※2023年の状況に限定して回答を依頼。すべて選択式。
グラフで見る調査結果
各質問ごとに調査結果を確認してみましょう。
Q1. 機械翻訳の影響で翻訳の仕事量は変わりましたか?


「仕事量が減った」という人も一定数いますが、「変わらない」という回答が大半を占めています。
極端に仕事量が減っているわけではないことがわかります。
Q2. MTPE案件を受注していますか


MTPE案件を受注している人の割合は、半数を超える60%となっています。
最近の翻訳案件の傾向としてMTPE案件が増えていることがわかりますね。
Q3. 以前と比較して翻訳単価は増減していますか?


「変わらない」という回答と同様に、「下がった」という人の割合が半数程度となっています。
「上がった」という回答はわずか3%にとどまっており、単価は低下傾向にあると言えます。
翻訳業界の現状に関するSNSでの口コミ
業界の変化を受けて、X (旧Twitter) では翻訳者や翻訳会社による投稿が増えています。
技術革新によるデフレ圧力で翻訳単価が下がりまくり。去年の半値くらいで機械翻訳後の磨きこみ(MT)やってる。クリエイティブな方面の翻訳にいかないとどんどんデフレだわ。
— とり Hitomi (@kyoukaran) September 18, 2021
翻訳ツールの発達で翻訳の受注が減ったか?実は減ってない。翻訳ツールでは対応しきれない対外文書や専門文書の翻訳にシフトしたから。むしろDeepLでベースを訳した後に修正するだけだから、処理速度が上がり案件増。AIに仕事を奪われないためにAIをうまく使ってスケールする方法を常に考えながら動く
— ぴよ@日本で外貨を稼ぐ副業 (@fukugyoinochiol) August 30, 2022
ところがやはり最近の機械翻訳の進化も相まって、単価は下がるばかり。泣いている翻訳会社や翻訳者は多いが、これで「ワード単価制が悪いのでは?」という声が上がり、新しいやり方が広まることにも実は期待している。
— 西野 竜太郎/Ryutaro Nishino (@nishinos) January 11, 2018
翻訳業界の仕事は今やほとんどMTPE(Machine Translation Post-Editing)にシフトしてるんだけど、単価が安くなった分、翻訳ニーズが膨大に増えている。絶対量が増え増えで、仕事がなくなったりはしない。変化して、大量になっている。同じことがIT業界にも言える。仕事は増えるがやり方が変わる。
— Bergamot, Asia (@Bergamot) November 26, 2023



単価が下がっているという声が多いね



仕事量に関しては、増えているケースもあるんですね
一部の投稿を引用してみましたが、
「単価が下がった」「MTPE案件の依頼が増えた」という声が目立ちます。
その一方で、「今すぐに翻訳の仕事がなくなる」と感じている人は少ないようです。
MTが登場したとき、翻訳の仕事がなくなると言った。でも2023年現在、翻訳の仕事はなくなってない。AIも同じことが言えて、多くの仕事がなくなると言われているけど、言ってるのはマスコミだけで、実際はなくならないと思う(なくなる仕事もある)。AIの精度それほどでもないと思うのだが。
— 株式会社MK翻訳事務所/特許翻訳 (@AccountMktf) April 26, 2023
機械翻訳で翻訳者は要らなくなるどころか、高度な翻訳ができる人が求められるようになっていることに世間は気づいているのかな。
— Kaori Myatt 🇫🇷France (@Kaorimyatt) November 10, 2023
業界の魅力がなくなったら高度な翻訳ができる人が減ってしまうよって、前から言ってるよね。
現役翻訳者から見た翻訳業界の見通し
ベテラン翻訳者も注目する「翻訳業界のAI事情」。
長い翻訳キャリアを誇るランサムはなさんは、自身のYouTubeで「AI翻訳の精度と翻訳業への影響」について語っています。
かつては存在しなかったMTPE案件についても、ベテラン翻訳者の見解は参考になるはずです!
翻訳の権威であるテリーさんこと齊藤貴昭 (Terry Saito) さんのブログでも、「AI×翻訳」がフォーカスされています。
MTPE案件を含む「翻訳の職種」については、以下の記事で解説しています。
2023年の英日翻訳求人の動向
翻訳業界の動向は確実に変わってきています。
調査結果や口コミを見るとMTPE案件が増加しているようですが、実際にはどうなのでしょうか?
大手翻訳求人サイトの動向
国内および海外向けの求人サイトとして、「アメリア」と「Translation Directory」の求人情報を検証してみましょう。
今回は、以下の条件で求人を絞り込みました。
- 英→日翻訳 (翻訳/レビュー/MTPE)
- フリーランス (業務委託) 向け
- 実務翻訳 (映像/出版翻訳は除く)
- 2023年12月時点で応募可能になっている
アメリア
上記の条件で絞り込んだところ、アメリアでヒットした求人は81件でした。
案件の種類 | 求人件数 | 単価の相場 |
---|---|---|
翻訳案件 | 47件 | 8~10円/word |
レビュー案件 | 24件 | 2.5~4.5円/word |
MTPE案件 | 10件 | 4.5~7.5円/word |
Translation Directory
同じ条件で絞り込んだところ、Translation Directoryでヒットした求人は17件でした。
案件の種類 | 求人件数 | 単価の相場 |
---|---|---|
翻訳案件 | 13件 | 8~11.5円/word |
レビュー案件 | 2件 | 3~5円/word |
MTPE案件 | 2件 | 5~7.5円/word |
4~5年前と比較するとMTPEの案件数が増えているようです。



当時は翻訳とレビュー案件が大半でした
しかし、割合的に翻訳やレビュー案件が減っているわけではないので、選択肢が増えたと考えたほうが自然でしょう。
一般的な単価に関しては、当時とさほど変わりはないようです。
私が契約している翻訳会社の動向
私が定期的に仕事を受注している翻訳会社は2社ですが、契約している会社は12社です。
2024年7月現在、これらの会社が出している求人をまとめてみました。
翻訳会社 | 現在募集中の求人(2023年12月時点) |
---|---|
日本企業A (IT) | 募集なし |
米国企業B (IT) | 翻訳/レビューの募集あり |
米国企業C (ビジネス・マーケ) | 募集なし |
米国企業D (IT・マーケ) | MTPEの募集あり |
欧州企業E (IT) | MTPEの募集あり |
欧州企業F (マーケ) | 募集なし |
欧州企業G (マーケ・字幕) | 募集なし |
日本企業H (IT) | 翻訳/MTPEの募集あり |
日本企業I (ビジネス・マーケ) | MTPEの募集あり |
アジア企業J (IT・ビジネス) | 翻訳/レビューの募集あり |
アジア企業K (IT) | 募集なし |
アジア企業L (IT) | 翻訳の募集あり |
現役翻訳者の口コミにもあったように、MTPEの求人が増えていることがわかります。
単価の相場は5~7円になっています。



新たにMTPE案件を導入した会社もあります
AI機械翻訳の精度は?人間より優秀?
AIが翻訳業界に大きな打撃を与えていますが、機械翻訳はどのくらい優秀なのでしょうか。
サンプルテキストを使って一般的な機械翻訳の精度を検証してみましょう!
- DeepL翻訳
- ChatGPT
DeepL翻訳の精度を検証
翻訳会社での導入事例が多いDeepLでは、独自開発のAIとニューラルネットワークを活用しています。
業界でも「翻訳精度が高い!」と評判ですが、人間の翻訳を超えることはできるのでしょうか?
サンプルの英文を使用して、実際に精度を検証してみましょう。
We chose to embark on the adventurous journey to a remote mountain cabin, seeking solace amidst the pristine, snow-covered landscapes.
私たちは、人里離れた山小屋への冒険的な旅に出ることを選び、手つかずの雪に覆われた風景の中で安らぎを求めた。
正確に訳されてはいますが、日本語が不自然に感じられる箇所もあります。



「旅に出ることを選び」ってなんか変だよね?
ChatGPTの翻訳精度を検証
ChatGPTはOpen AIが開発した最先端のAIです。
文章生成の精度に定評があり、翻訳業界でも注目を集めています。
同じサンプルを使用して検証してみましょう。
We chose to embark on the adventurous journey to a remote mountain cabin, seeking solace amidst the pristine, snow-covered landscapes.
私たちは遠くの山小屋への冒険的な旅に出ることを選び、未開の雪景色の中で静けさを求めました。
こちらも誤訳や訳抜けはありませんが、言い回しが機械的です。
人間が修正すると翻訳精度がアップ
2種類の機械翻訳ツールで訳出しましたが、この英文を少し手直ししてみましょう。
We chose to embark on the adventurous journey to a remote mountain cabin, seeking solace amidst the pristine, snow-covered landscapes.
まっさらな雪景色に癒やしを求め、私たちは人里離れた山小屋へ冒険の旅に出ることにしました。
「癒やしを求め」を文頭に置くことで、「旅に出ることにしました」という自然な流れになります。
このように語順や訳語を工夫すれば、より自然な翻訳が完成します。



人間の視点って大事だね
機械翻訳では対応できない主な翻訳ジャンル
どのようなジャンルであっても機械翻訳に依存するのは危険です。
ここでは、特にその影響が大きいジャンルをいくつか挙げてみます。
1. 文芸翻訳
文芸翻訳では「対象の読者」や「本のジャンル」などを十分に考慮して訳を捻出する必要があります。
たとえば子供向けの絵本では、硬い表現や複雑な言い回しはNG。
機械翻訳が読者に合わせて言い回しを変えることは不可能なので、人間の介入が欠かせません。
2. マーケティング翻訳
実務翻訳の中でもクリエイティブな要素が強いマーケティング翻訳。
ユーザーや顧客にとって魅力的な文言を使用する必要があります。
機械翻訳には法務文書やマーケティングなどのコンテンツタイプを判別できないので、人間の視点が重要です。
3. 字幕翻訳
セリフなどの「話し言葉」を翻訳する字幕翻訳では、話し手の属性やストーリーを考慮して訳を充てます。
たとえば、以下のような要素に着目します。
- 話し手の性別
- 話し手の年齢
- 登場人物の関係性
- 話し手が何を意図しているのか
機械翻訳には属性や意図を把握できないので、やはり人間の介入が必要です。
AI時代に求められる翻訳者になるためのポイント
将来的に仕事量が増減する可能性はありますが、業務の幅が広がってきているのも確かです!
AIとうまく共存して求められる翻訳者になるために、押さえておくべきポイントを紹介します。
ポストエディット (MTPE) 需要の波に乗る
大手翻訳会社の見解からわかるように、MTPEの需要はますます増えていくでしょう。
人が行う翻訳の需要が消えることはありませんが、同時に、ポストエディットの需要は必ず増えてくるので、翻訳業務の幅を広げていく一つの手として、ポストエディットを前向きにとらえていただきたいと考えています。
川村インターナショナルのウェブサイトより引用
最高の訳文をスピーディーかつ、高いコストパフォーマンスで提供するためには、NMTと人間、お互いの強みを生かした機械翻訳+ポストエディットの組み合わせの需要がますます増えていくことが予想されます。
クリムゾン・ジャパンのウェブサイトより引用
機械翻訳を駆使したMTPEをこなせる翻訳者になれば、安定的に仕事を得られるチャンスが広がります。
現状では翻訳と同じくらい労力がかかる場合もあるので、単価を十分に検討するのも重要です。
普段からAIによる訳文に触れ、「私ならこう修正するな」といった感覚を身につけておきましょう!



自分がこなせる仕事量と単価のバランスが重要です
AIに負けない翻訳スキルを身につける
ChatGPTのような高度なAIが登場する前は、機械翻訳の訳文は使い物にならないレベルでした。
しかし、現在のAI技術は翻訳者にとっての脅威となっています。
ここで重要なのは、AIを超えるスキルを身につけることです。
- 機械翻訳のミスをすぐに見抜ける英語力を身につける
- 機械翻訳には捻出できない自然な表現を使いこなす
- ただ訳すだけでなく、コンテンツに合わせて訳語を使い分ける
翻訳者に欠かせない「日本語力」については、こちらの記事もご覧ください。
頭でっかちにならない
これまでの翻訳業界では「機械翻訳の使用禁止」といったルールが目立っていました。
時代とともにこのルールが撤廃され、「機械翻訳と仲良くなろう」という流れになってきています。
仕事を受注し続けるためには、翻訳者自身も柔軟な考え方にシフトすべきです!
- 機械翻訳は絶対使わない!というこだわりを捨てる
- 翻訳会社からの新しい提案 (MTPEなど) も選択肢に加える
- 機械翻訳はダメ!と決めつけず、上手に活用して仕事を効率化する



機械翻訳は敵じゃないってことだね!



そうそう。
切磋琢磨してスキルアップしたいですね
AIを使いこなして仕事を取れる翻訳者になろう!
今回は、機械翻訳の進化と翻訳業界の変化、AI時代に翻訳者として生き残るための秘訣を解説しました。
この記事のポイントをまとめると・・・
- 機械翻訳にはまだまだ改善の余地がある
- 仕事量や単価の増減はあるものの、すぐに翻訳の仕事がなくなることはない
- MTPEも1つの選択肢。単価と許容量のバランスを見て受注すべき
- 機械翻訳と共存できる柔軟な考え方が重要
AIなどのテクノロジーが普及するにつれて、翻訳業界も徐々に変わってきています。
安心して翻訳の仕事を続けるために、時代の波に乗った働き方を意識しましょう!